第十一回
「クーラーの夏」

現代舞踊 舞踊家

 

 今年の夏はすごい猛暑。暑い暑いとへこたれて少々ぶざまな格好である。海が好きで、例年は海水浴と心を躍らせていたのだが、ついついクーラーにべっとり浸ってしまった。
「いけませんクーラーは…」毅然とした命令形の師匠の声が聞こえてくる。
「私達舞踊家は足腰が大切です。体を冷やすと真っ先に足腰にひびきます。人工的冷房は骨身に一番こたえると聞いています。いつ迄も元気で立派に踊り続けていられるように、心掛けて行きましょうね。クーラーはいけません」
師匠のお宅の庭には縁台があって、よく夕涼みに招かれた。紺染の浴衣はお似合いで、打ち水で濡れた玉石に、下駄の素足をのせ、軒の風鈴を聞きながら、団扇をくゆらす風情の人である。「夏は自然の風をいただけるこの庭が最高なのよ」そして、カキ氷が用意されていた。
時は流れて、師匠は都心の、とあるマンションに移られた。居間続きで庭のないマンションは、それも暑さ厳しい西日の向きであると話された。
  さすがの師匠も、「夏場は矢張りクーラーですね。体にひびかないように、温度調節を忘れてはいけません。それはくれぐれもですよ」
  つまり、健康管理を諭す親心である。充分納得し、ありがたい言葉だと思いながらも、いかんせんこの暑さだ。ただただクーラーの虜にさせられてしまっている。
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